4. 調査結果

 日本列島がどのようにできたのか確認できたところで、今回の調査についての話に戻りましょう。

日本には1000以上の酒蔵がありますが、今回のプロジェクトではその中から、なるべく特徴的と思われる283地点の酒蔵より仕込み水をご提供いただき水質分析を行いました(図7)。

全国から収集した283地点の試料について、基本的なイオン成分(陰イオン:Cl、HCO3、SO42-、NO3 の4成分、陽イオン:Mg2+、Ca2+、Na+、K+の4成分)の含有量を測定しグラフ化しました。水の分析結果の表現には「ヘキサダイアグラム」と「トリリニアダイアグラム」というグラフを使用しています。

このようなグラフは専門外の方にとっては普段は見慣れないものですので、まずはダイアグラム(図の意味)の見方と意味を解説します(図8)。

地下水流動や水質形成の要因、水質形成進化などについて明らかにする場合、各溶存成分の濃度を当量値(meq/Lまたはme/L)で表したものを「ヘキサダイアグラム」で表現します。縦の軸を挟んで両側に陽イオンと陰イオンのイオン量を軸からの長さで図示したものです。このダイアグラムは、その形(各イオンの座標を結んだ六角の図形)は水の溶存イオンの組成を示し、形の大きさ(軸からの距離)は溶存イオン濃度を表現しています。

次に、「トリリニアダイアグラム」ですが、陽イオンと陰イオンのそれぞれの含有比を計算してそれぞれの三角座標図に表し、その2つの三角座標図を合成した菱形の図(キーダイアグラムといいます)にプロットして、その測定水の特徴を図示したものです。このキーダイアグラムの中のプロットされた位置で、その水がどのような起源か(環境に置かれたものか)を推測することができます。

この、トリリニアダイアグラムとヘキサダイアグラムを併用して解析することによりその水の環境や性質を推定することができます。

<地質と仕込み水の関連についての考察>

日本列島は地質区分上、「東北日本」と「西南日本内帯」と「西南日本外帯」の大きく3つにわけることができ、各々で地質の特徴(広く分布する岩石の種類)が異なっています。

そこで、283地点の測定値で地質区によって水質に違いがあるか調べてみた結果、東北日本と西南日本内帯では、その分布に違いがあることが明らかになりました(西南日本外帯はサンプル数が少ないため、残念ながら特徴を見出すことができませんでしたが)。

地質帯
Geological Zone


[サンプル数 Sample Num.]
東北日本
NE Japan

[n = 130]
西南日本内帯
SW Japan
(Inner Zone)

[n = 130]
西南日本外帯
SW Japan
(Outer Zone)

[n = 6]
Ⅰ アルカリ土類炭酸塩型65 (50.0%)94 (63.9%)4 (66.7%)
Ⅱアルカリ炭酸塩型2 (1.5 %)3 (2.0%)
Ⅲアルカリ土類非炭酸塩形3 (2.3%)2 (1.3%)
Ⅳアルカリ非炭酸塩型13 (10.0%)13 (8.8%)
Ⅴ中間型47 (36.2%)35 (23.8%)2 (33.3%)

このように詳しく調べていくと、地質(岩石)の種類によって以下のように水を特徴づけることができます。

  • 源岩依存型:岩石要因が水質に反映していることが見てとれる
    ・ジュラ紀付加体、高P/T変成岩、花崗岩・花崗閃緑岩、火山岩、更新世石灰岩、火砕流堆積物、海成層 など
  • 流動地下水型:地下の滞留環境による複数起源水の混合などが強く水質に影響している
    ・河岸段丘堆積物、海岸平野堆積物、河川堆積物、山間盆地堆積物 など

この分類にそって考察すると、東北日本は流動地下水型が多く、西南日本内帯は花崗岩・花崗閃緑岩の源岩依存型が多いということができます。